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ExpertLinks Media 日中ビジネス実務解説

デカップリング時代、中国事業を
どう再設計すればよいか?

結論

撤退でも残留でもなく、機能ごとに距離を変える時代です。製造・販売・データ・人材の4機能を分解し、それぞれにリスク許容度を設定する——これが多くの日系企業にとって最も現実的な出発点です。

なぜ「撤退か残留か」では
意思決定できないのか?

在中国日系企業は依然31,060拠点(2023年10月、外務省)、黒字企業比率58.4%(2024年度、JETRO)。全面撤退を正当化するほど悪化していない。しかし現状維持が最適でもない。危険の質が機能ごとに違うため、一律の答えが存在しない。

現場の中国事業責任者が実際に悩んでいるのは「中国から出るか」ではありません。既存顧客、現地サプライヤー、工場人員、ローカル幹部、未回収債権、設備償却、技術流出リスクが絡み合い、「撤退」という言葉を出した瞬間に社内外の利害関係が一斉に動き始めます。だからこそ機能ごとに"動かす順番"を決める必要があります。

もう一つの構造的問題が、本社と現法の視点のズレです。日本本社は「中国リスク」を見ている。中国現法は「明日の売上・顧客・人員」を見ている。法務・財務・事業部が別々の判断軸で動いている。この情報ギャップを埋めないまま「方針を決めろ」と言っても、経営会議では結論が出ません。

Figure 02 本社と現法の「視点ギャップ」
「方針を決めろ」では動かない — 視点のズレが経営会議の停滞を生む構造
HQ / JAPAN
日本本社が見ているもの
地政学リスク・規制動向
📋株主・取締役会への説明責任
🏢グループ戦略との整合性
情報
ギャップ
LOCAL / CHINA
中国現法が見ているもの
📈明日の売上・顧客・未回収債権
👥現地人員・ローカル幹部の動向
🔗サプライヤー網の維持
▸ このギャップが生み出す3つの停滞
01
「撤退・縮小・維持」の方針が経営会議で決まらない
02
現地の実態が本社の意思決定に届かない
03
法務・財務・事業部が別々の判断軸で動く
So What
「方針を決めろ」という指示だけでは動かない。本社・現法・法務・財務・事業部の視点を同じ土俵に並べる設計が、意思決定の前提条件になる。

4機能別に「距離感」を
どう設計するか?

製造は「近距離+二重化」、販売は「選択的近接」、データ・知財は「分離・閉域化」、人材は「コスト先行計算」。この4つを機能ごとに独立して設計することが基本フレームです。

販売機能については、「残すかどうか」だけでなく「誰を通じて売るか」の見直しが同時に必要です。市場が変わると昔強かった代理店が急に弱くなることがあります。現地購買決定者の変化、ローカル競合の仕様・価格・納期、売掛金の回収条件——これらを同時に点検しないと、「販売機能を残した」だけで収益が劣化し続けます。

人材機能は補償金だけで見るとやや狭い。撤退・縮小・再編時に最も重要なのは、中国現法の総経理・副総経理・営業責任者・工場長をどう巻き込むかです。キーマン離脱が起きると、顧客流出・情報漏洩・社内政治が同時に動き始めます。

Figure 01 4機能別「距離感」設計マップ
機能ごとにリスクの質が異なる — 4つを一律に判断してはいけない
距離感の方向
優先アクション
規制コスト
判断の根拠
製造
Manufacturing
近距離+二重化
輸出規制・BCP対象品目から20〜30%を第三国へ分散
現地調達率73.6%・中国企業71.3%(JETRO 2026年4月)。一括移管はコスト・品質・スピードで逆効果
販売
Sales
選択的近接
差別化できる高付加価値品・B2B専門商材に絞り、代理店・回収条件を見直す
拡大企業の67.7%が販売機能を強化(JETRO 2025年2月)。最大競合を中国企業とみる比率80.3%
データ・知財
Data & IP
分離・閉域化
コア知財・本社横断データは中国外へ。現地運営データ(CRM・WeChat等)は中国内で完結
最高
PIPL第38条・DSL第31条・国務院令790号(2025年1月施行)が三重に重なる。動かしにくい機能筆頭
人材
Human Capital
コスト先行計算
経済補償金を撤退予算に先行計算。ローカル幹部のキーマン離脱リスクを別途管理する
中〜高
労働契約法第47条:勤続1年=1か月賃金・補償上限12年。100人・月給9,000元・勤続5年→約450万元
Key Insight
データ・知財だけが「後から動かせない」構造を持つ。製造・販売・人材は段階的に調整できるが、一度中国に深く組み込まれたデータ・知財の切り離しコストは時間とともに増大する。

ExpertLinksの視点:
最初に見るべきは「動かせないもの」

中国事業再設計で最初に見るべきは、売上でも利益率でもありません。「動かせないもの」です。現地顧客との契約、キーマン人材、設備、データ、知財、未回収債権、撤退時の労務コスト——これらを棚卸しせずに「撤退・縮小・維持」を議論しても、経営会議では結論が出ません。

01
「動かせないもの」の棚卸しから始める

中国事業で本当に怖いのは、撤退できないことではありません。怖いのは、撤退も継続も決められないまま、データ・人材・顧客・資金がじわじわ劣化していくことです。機能ごとに「動かす順番」を決め、最初の一手を打てるかどうか——ここが経営判断の分岐点です。

02
「データ・知財から着手する」という順番の合意

4機能のうちデータ・知財だけが「後から動かせない」構造を持ちます。製造・販売・人材は段階的に調整できますが、一度中国に深く組み込まれたデータ・知財の切り離しコストは時間とともに増大します。この順番の合意が、中国事業再設計の最初の経営判断になります。

Figure 03 実務着手の優先順位と時間軸
「データ・知財から着手する」という順番の合意が、最初の経営判断になる
即時〜12か月
3〜6か月
財務計画策定時
24〜36か月
※ 4つを同時に動かすことはできない。順番を誤ると後から動かすコストが増大する。
1データ・知財の閉域化
即時〜12か月
PIPL第38条・DSL第31条・国務院令790号
コア知財・本社横断データを特定し中国外移転 or 閉域化を決定。着手から完了まで最も時間がかかるため最優先。
2販売機能の代理店・回収点検
3〜6か月
SAFE外為通達・PIPL第38条(越境EC)
現在の代理店が今の顧客にアクセスできているか確認。売掛金回収条件・購買決定者の変化を同時に点検する。
3労務コストの先行計算
財務計画策定時
労働契約法第41条・第47条
集団解雇(20人以上または全従業員の10%以上)の補償総額を財務モデルに組み込む。100人・月給9,000元・勤続5年→約450万元(概算)。
4製造機能の二重化計画
24〜36か月
技術輸出入管理条例・BIS EAR
全量移管ではなく輸出規制・BCP対象品目から20〜30%を対象に第三国拠点を選定。現地調達率73.6%を踏まえた段階設計が必要。
最優先
データ・知財の閉域化
後から動かせない唯一の機能
73.6%
中国現地調達率
製造一括移管が非現実的な理由
450万元
労務コスト目安
100人・月給9,000元・勤続5年(概算)
24〜36M
製造二重化の所要期間
最も長期の投資が必要な機能
よくある質問(FAQ)
Q.製造機能は中国から全面撤退すべきか?
A.現時点では全面撤退より「二重化」が実務的です。中国の現地調達率は73.6%に達し、一括移管はコスト・品質両面でリスクが高い。BCP・輸出規制対象品目から段階的に第三国へ分散するアプローチが主流です。
Q.データを中国外に移すのに何が必要か?
A.PIPL第38条により、安全評価・専門機関認証・標準契約(SCC)のいずれかが必要です。ただし中国顧客データ・WeChat・現地CRMは中国内で完結させる方が実務的な場合も多く、「コア知財だけオフショア」が現実解です。
Q.人件費補償はどれくらいかかるか?
A.労働契約法第47条に基づき勤続1年=1か月賃金が原則。100人・月給9,000元・勤続5年で約450万元(概算)。集団解雇(20人以上または全従業員の10%以上)は第41条の手続きが別途必要です。
Q.中国事業の機能別距離感設計について相談したい
A.ExpertLinksでは、日中クロスボーダーの機能別リスク設計・撤退戦略・データガバナンスに知見を持つ専門家とのマッチングが可能です。
監修:胡原浩
元・総合系コンサルティングファーム戦略リーダー/
外資系コンサルティングファーム執行役員パートナー
日中ビジネス・クロスボーダー専門家|ExpertLinks代表
執筆:ExpertLinks編集部